製品づくりに関心を持つ方なら、一度は「設計」と「デザイン」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。しかし、「デザイン」と「設計」がどう違うのかを問われると、少し難しく感じるかもしれません。どちらも製品の開発に欠かせない要素ですが、それぞれ異なる役割を担っています。
今回の記事では、「デザイン」と「設計」の違いをわかりやすく解説しながら、どのようなプロセスを経て製品が作られていくのかをご紹介します。デザインの段階でユーザーにとっての魅力を形にし、設計のプロセスでそれを実現可能な形へと落とし込む——この一連の流れは、製品の成功に欠かせない要素です。
さらに、各工程にまつわる知識や工夫、ちょっとした豆知識も交えながら、ものづくりの奥深さに触れていただける内容をお届けします。「デザイン」と「設計」がどのように相互に影響し合い、製品が形になるのかを、ぜひ一緒に探っていきましょう。
「設計」と「デザイン」の違いとは?わかりやすく徹底解説
「設計」と「デザイン」という言葉は、どちらも製品づくりにおいて重要な役割を果たしますが、その意味や使い方には微妙な違いが存在します。多くの方が混同しがちですが、日本国内では両者が異なるプロセスとして認識されています。設計は製造プロセス全体を支える技術的な構築を意味するのに対し、デザインはユーザーに喜ばれる見た目や使い勝手を重視したビジュアル的な設計といえます。
今回は、「デザイン」と「設計」の違いについて、それぞれのプロセスの概要や、どのような場面で使われるのかを徹底的に解説していきます。まずはデザインが何を意図するのか、設計がどのようにそれを現実化するのかを理解するところから始めましょう。
デザインとは? その意味と役割
「デザイン」は、製品の外観や使い心地を左右する重要な要素です。デザインの作業は主に、使用する人の視点に立ち、魅力的で使いやすい形を追求することが目的となります。デザインはここで完結し、プロセス全体の中で一番初めに行われる段階でもあります。
- デザインはユーザーが実際に触れる外観や形状を創り上げます。
- デザインが重視するのは、見た目やユーザビリティ(使いやすさ)です。
- 完成したデザインは設計者へと引き継がれ、次のプロセスが進められます。
デザインは見た目の美しさだけでなく、ユーザーの心理的な満足感や機能性をも考慮して行われます。そのため、製品の「印象」を決定づけるとても重要なプロセスなのです。
設計とは? デザインとどのように異なるのか
「設計」はデザインが完了した後に始まる工程で、製品を実際に製造可能な状態へと変換していきます。設計の役割は、デザイン画に基づき、実際に製品を製造するための技術的な情報を詰め込むことです。このプロセスでは、デザインが提供するアイディアを具体化し、製造現場で実際に作り上げられるよう詳細な指示を加えていきます。
具体的な設計作業の流れ
設計のプロセスは段階的に進行し、以下のような工程が含まれます。
- デザイン画を元に、CADソフトで精密な設計図を作成
- 設計図から試作品を作り、その後フィードバックを元に図面を修正
- 工場と協議し、量産に適した形で図面をさらに調整
- 量産開始後も、必要に応じて図面の修正を続ける
- 最終的な品質基準を策定する
以上のプロセスを経ることで、設計者はデザインを実際の製品として形にしていきます。次項では、具体的な作業ごとにもう少し詳しく説明していきます。
デザインから設計図面を作成する作業
設計の初期段階では、デザインのスケッチやイメージをもとにして、設計図を作成します。設計図はCAD(コンピューター支援設計)という専用ソフトを使用して、具体的な数値や詳細な情報を付け加えていきます。以下は設計図に含まれるポイントです。
- 全ての部分における寸法を詳細に記入
- 機能的に成立する構造を組み込み、実用性を持たせる
- 部品同士が組み立てられるような設計を考慮
- 大量生産が可能な形状や構造を持つこと
最近では、CADによってデザイン段階から設計がある程度進められることも多くなってきました。しかし、デザインと設計では目的や視点が異なるため、細かな違いが生まれます。例えば、デザイン画は視覚的な美しさを追求するため、量産に適した構造を必ずしも備えていないことがあります。設計者は、これを量産可能な形へと変えるための作業を進めていきます。
試作品の製作と設計のフィードバック
設計図が完成したら、そのデータを元に試作品を作成します。現在では、3Dプリンターなどの技術も進化しているため、実物の試作品を簡単に作れる環境が整っています。試作品が実際に形になることで、組み立ての微調整や部品間の隙間、さらには不具合が見つかることも多々あります。
例えば、試作品を使った際に「ここにもう少し余裕がほしい」や「構造が複雑すぎて作業効率が悪い」といったフィードバックが生まれます。設計者はそれらを反映し、図面を修正して次のプロセスに進む準備を整えます。
設計プロセスにおける試作品の重要性と修正の流れ
設計図が出来上がった後、次に進むのは試作品を用いたテストと修正の工程です。ここからは製品の品質と精度を高めるため、実際に目で見て手で触れることのできる試作品を活用します。この工程では、図面上で予想できなかった問題点を発見し、さらなる改良を施していきます。
試作品の役割と目的
試作品は、完成品に近い形状で作られる初期モデルのことで、設計が意図した通りに機能するかを確認するために用いられます。特に最近では、3Dプリンターが普及しているため、少量の部品や形状を短期間で手軽に作れる環境が整っています。試作品があることで、実物でしか気づけない以下のようなポイントを確認できます。
- 部品の隙間や余裕、干渉などが適切か
- 組み立てた際に意図通りの機能を果たすか
- 想定していた強度や耐久性を持っているか
図面上では完璧に見えた設計でも、実物になると「ここが微妙に噛み合わない」「組み立てが難しい」など、予期せぬ問題が発生することが少なくありません。そのため、試作品での確認作業は製品の品質を左右する重要なステップなのです。
フィードバックを受けた設計修正の進め方
試作品を通じて得られるフィードバックは、設計を改善するための貴重な情報源です。例えば、試作品を評価する際には、多くの関係者が試作品を手に取り、見た目や使い勝手をチェックし、改善が必要な部分を指摘します。その後、以下のような流れで設計図を修正していきます。
- 試作品の不具合や改善点をリストアップ
- 図面を修正し、再度試作品を作成
- 再試作で問題が解決しているかを確認
このプロセスを通じて、最初の設計図に改良を重ね、完成に近づけていきます。最初から完璧な設計図を作成するのは困難であり、この修正作業こそが設計者にとっての重要な仕事といえます。
量産に向けた工場との協議
次に、量産に向けた調整が行われます。ここからが設計者の実力が試される部分です。量産とはいえ、多くの製品において同一の品質を保つためには、試作品の時点で発見された問題点を解決し、さらに量産時の制約を考慮した設計が求められます。
例えば、プラスチック製品の場合、金型という特別な型が必要になりますが、金型を作成するには「抜き勾配(製品が型から外れやすくするための傾斜)」や「肉厚の調整」などの特殊な考慮が必要です。これらの点を踏まえた設計修正が行われないと、量産で問題が発生する可能性が高まります。
工場との連携によるコストダウン
設計には製品のコストダウンも求められます。量産における金型製造の費用は高額であるため、設計の段階で少しでもコスト削減を図ることが重要です。たとえば、以下のような工夫が検討されます。
- 製造工程を簡略化できる設計
- 材料の使用量を最適化する構造
- 組み立て時間を短縮できるような部品配置
量産の成功には、設計段階での計画と調整が欠かせません。設計と製造の密接な連携により、コストを抑えつつ品質の高い製品を提供できるのです。
量産立ち上げと品質基準の策定:設計の最終段階
量産を開始する段階に入ると、設計の役割はさらに重要になります。量産立ち上げでは、製品の安定供給が求められますが、実際の組み立てや機能面で問題が発生することもあります。ここでの設計者の関わりが、製品の品質と完成度を大きく左右するのです。
量産立ち上げ時の設計修正
量産の開始時、すべての部品が予定通りに機能するかどうかを実際に組み立てながら確認します。しかし、「組み付けに苦労する」「部品同士が干渉する」などの問題が見つかることは珍しくありません。こうした問題を早期に解決することで、スムーズな量産が可能になります。
頻発する量産時の問題点
量産時に発生しやすい問題には、以下のようなものがあります。
- 部品がうまく噛み合わず、組み立てが難しい
- 一部の部品が想定以上に摩耗する
- 機械的な不具合や作動不良が見つかる
- 外観の精度が量産品ごとにばらつく
設計者はこうした問題が発生した場合、迅速に対応し、図面や仕様を修正していきます。例えば、部品の寸法を微調整したり、別の部品でサポートする方法を検討したりします。また、製造過程で使いやすいように組立手順を見直し、作業効率を向上させることも設計者の役割です。
品質基準の策定と設計の関わり
製品が市場に出る前には、品質の基準が明確に定められなければなりません。この品質基準は、製品が「良品」として出荷できるかどうかを判断するための重要な基準です。設計者は製品の機能や特性を一番理解しているため、品質基準の策定にも深く関与します。
品質基準の策定ポイント
品質基準を策定する際には、以下の点を考慮します。
- 製品が使用目的に適合しているかどうか
- 安全性や耐久性が確保されているか
- 外観や仕上げの品質が一定水準を満たしているか
- 長期間の使用で不具合が出ないように設計されているか
設計者が定めた基準は、出荷時に製品がその基準を満たしているかを確認するための指針となります。品質管理担当者が製品の各項目を検査し、基準に達していない場合には改善が求められるのです。
設計と量産の切れない関係
設計は、製品が完成するまでの一過程ではなく、量産が始まっても重要な役割を担い続けます。市場に出回る製品の品質を守るため、設計者は継続してサポートし、必要に応じて修正や改善を加えていきます。これは、「設計」と「量産」が密接な関係にあることを示しています。
製品開発の成功は設計にかかっている
製品開発の現場では、「デザインは成功を作り、設計は失敗を防ぐ」という言葉があるほど、設計が製品の成否に大きく関わっています。デザインは消費者に魅力的に映る製品を生み出す一方で、設計はそれを実現可能にし、安定した品質とコストを保つための工夫を行います。
設計とデザインは一見別々の作業に思われがちですが、製品開発においては相互に補完し合う関係です。デザインが描く理想を、現実的な製品として形にするのが設計の仕事であり、そこには多くの技術や工夫が求められます。設計が最後まで製品に関わることで、消費者に届く製品が高い品質と信頼性を備えることができるのです。
これにて、「設計」と「デザイン」の違いと、それぞれの役割についての説明は以上です。製品開発の現場での設計の重要性を理解いただけたでしょうか?製品が安定して市場に届けられる背景には、多くの設計者の努力と工夫があることをぜひ覚えておいてください。
豆知識
ここからは関連する情報を豆知識としてご紹介します。
デザインと設計の英語表現
日本語では「設計」と「デザイン」として明確に区別されますが、英語ではどちらも「Design」と表現されることが多いです。場合によっては「Engineering Design」や「Technical Design」で設計を表し、デザインと区別することもあります。
「設計」と「デザイン」の始まり
「デザイン」という言葉の起源はラテン語の「designare(デジナーレ)」で、「指定する、計画する」という意味を持ちます。一方、「設計」は日本では工業化の進展に伴い、技術的な計画を意味する言葉として普及しました。
CAD(コンピューター支援設計)の歴史
CADは、1960年代に航空機や自動車の設計で初めて使用されました。当初は膨大な計算や手作業で行っていた設計を効率化するために開発された技術です。現在では3Dモデルや試作品の製作にも使われ、多くの業界で不可欠なツールとなっています。
3Dプリンターの普及で変わる試作プロセス
以前は試作品の製作に高いコストと時間がかかっていましたが、3Dプリンターの普及によって短期間で安価に試作できるようになりました。これにより、試作品を何度も改良できるため、より精度の高い設計が可能になっています。
プラスチック製品と「抜き勾配」
プラスチック製品を量産する際、金型を使用して成形しますが、製品が型から簡単に取り出せるように「抜き勾配」という傾斜が必要です。設計者はこの点も考慮しながら製品の形状を工夫します。
設計者の考慮する「製造コスト」とは?
製造コストは設計段階で大きく変わります。部品の数が多いと組み立てに時間がかかるため、できるだけ少ない部品で機能を満たす設計が求められます。また、安価な材料を選ぶこともコスト削減につながりますが、強度や品質とのバランスが重要です。
「デザイン思考」と設計の関係
「デザイン思考」は、主にユーザー目線で製品やサービスを開発するアプローチです。近年では、デザイン思考の考え方が設計にも応用され、ユーザーのニーズを満たす機能や形状を追求する設計手法が注目されています。
日本と海外での設計の違い
日本の製造業では、設計が完成してから製造を始める「フロントローディング」と呼ばれる手法が重視されます。これにより、製品の不具合を事前に減らすことが期待できます。一方、海外では試作品を多く作って改善を重ねる「プロトタイピング」方式が主流で、スピード重視の開発が行われることも多いです。
品質管理の基準
「ISO(国際標準化機構)」などが定める品質管理基準も、設計と製造の現場で重要な指針となります。ISO基準に適合する製品は世界中で信頼性が高いとされ、特に医療機器や自動車部品など、安全性が重要な製品では品質管理が厳格に行われます。
エコデザインとサステナビリティ
近年、設計段階で環境に配慮した「エコデザイン」が注目されています。製品の製造・使用・廃棄までを通して環境への影響を最小限にする設計が求められ、再生可能な素材の使用や、省エネルギーでの製造などが取り入れられています。
試作品の「フィードバックループ」とは
設計の試作品に対してフィードバックを受け、再設計・再試作を繰り返すプロセスは「フィードバックループ」と呼ばれます。この繰り返しにより、品質の向上や不具合の改善が積み重ねられ、製品の精度が高まります。
製品ライフサイクルと設計
製品は、開発から製造、販売、廃棄に至るまでのライフサイクルがあり、それに応じた設計が求められます。長期間にわたる耐久性が求められる製品では、部品の寿命や交換のしやすさなども設計に含めることで、製品全体のライフサイクルが最適化されます。
これらの豆知識が、ブログ読者の興味を引き、さらに設計とデザインの深い理解につながることを願っています。
おわりに
ここまで、「設計」と「デザイン」の違いから、それぞれの役割や流れについて詳しくご紹介しました。普段、私たちが手に取る製品も、デザインと設計の細やかなプロセスが合わさって形作られていることを、少しでも感じていただけたのではないでしょうか。
デザインは、製品の「らしさ」やユーザーに伝わる魅力を形にするもの。そして設計は、そのデザインを実際に機能する製品として生み出すための技術的な裏付けです。どちらも一つとして欠かせない工程であり、互いに支え合いながら製品の価値を引き出しています。
また、豆知識として紹介した内容も、ものづくりへの理解を深める一助となれば幸いです。今後、何か製品に触れる際には、ぜひそのデザインや設計に込められた工夫にも目を向けてみてください。思いがけない発見があるかもしれません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。これからも、製品開発やデザイン・設計に興味を持っていただけたら嬉しいです。